炎如交際

キング×(数学+鼻血+保護区域)=世界平和 を提唱(したい)ブログです

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【錆びとカミソリ】

カテゴリのあたまにある設定で書きたいことを書ききれなかったのでシリーズ化を目論んだくらいなのでそのあまりおもしろくないというかつまらないかとおもいます…設定を変えたところであまり変わり映えしないのが口惜しい…^^^^^^

色々細かいところがおかしかったりするかとは思いますが、暇つぶし程度に読んでいただければ幸いです…

あと何話か書き加えたりもしたいけれど夏コミあわせの原稿に突入しますのでまたしばらく沈むかと思われます面目ない^^^^^^^^^^^^


ほんとにほんとにお暇な方のみどうぞー!どろん!!!
※設定は先にご一読いただけるようお願いいたします!

錆びとカミソリ

健二は紫陽花の色具合があんまり雑多多様でとらえどころがないので困っていた。どれだけ見ていてもどれが正しい色なのかぜんぜん判別できなかった。健二は未だ曖昧に対して嫌悪にちかい感情をもつ癖を拭えないでいた。初夏から真夏に至る過程の、湿っぽい季節柄に育まれる花のむれは昏倒した幻想ばかり眺めて眺めた色を自身の表面に垂れ流している、ような。とにかく把握できないフカシギだから健二は、生垣から溢れている紫陽花をただ無心に眺めつくしていた。
ところで肩を叩かれて振り向くと、待ち人が呆れた顔で立っている。その額に、汗が前髪を張り付かせているのを見て、そうだこのこを待っていたんだっけと健二は思い出す。宵闇すらまだ訪れない橙色の皮膜が時間を包んで生暖かい。
「紫陽花見ていたの」
佳主馬は鋭い目つきを瞬間和らげて健二を見上げた。健二は急激に彼への意識が己の中に拡張していくのを知る。彼と出会ったのは五年前でそのころ彼はまだ少年だった。華奢につくられたしなやかな肢体はなんだか可憐みたいで模型じみていた、けれど、未だ自分の身長に追いつかない彼は健二なんかよりも段違いの強靭さをその体躯に誇る。健二は彼の目を眺めながら自分の虚弱が恥ずかしいもののように思えて、視線をそらしたくなる。しかし大概は失敗して、漆黒の露を集めて固めたような彼の瞳にあえかな羨望を埃のように散らすのだ。
「健二さん?」
呼ばれて健二は今度こそ、顔を俯かせて道路を見た。灰色のアスファルトは黄色の光を薄めてなだらかに曇りいく。視界の端にわずかひっかかる佳主馬のスニーカーが翳りを増すのに、空模様の変化が如実だった。健二はそう、紫陽花を見ていたんだよ、とうやむや呟いた。佳主馬は健二の薄い肩に触れた。健二はそれだけで、硬いてのひらのそれだけで竦む己の矮小にため息を零した。
「いつもごめんね。迎えに来させて」
そう言う佳主馬の体が、落ち着き無くトントンとステップを踏んでいるのを見つけて、健二ははっとして止めてあった自転車にもたもた跨った。
「いいの、いいんだよ。僕も運動不足解消できるしさ」
「そう?なら、いいけれど」
学校帰りに佳主馬が寄るジムはふたりで暮らすアパートから2キロ近くある。学校までは電車で通っている佳主馬は、所属する部活での練習のあと、ジムでのトレーニング前にジムまでの距離、トレーニング後に家路までの距離をランニングにあてがう。部活は毎日やっているが、ジムでのトレーニングは土日を含めた週3で行っている。ジムのある日には、健二は中間地点あたりまで自転車で佳主馬を迎えにいく。
健二がサドルに尻を落ち着けるとほぼ同時に、佳主馬は軽やかに走り出した。健二は慌ててぐっとペダルを踏み込む、冴えない力の伝播がチェーンに絡まり運動になる過程さえ、健二の胸腔に曇り空に似た陰鬱を流し込んだ。健二は彼の隣に自転車を滑らせて、急ぐでも、緩やかにするでもなく、湿気のかぎりを推進していく、併走する佳主馬は器用に健二の速度に合わせてくれる。健二はぬるい風を搔き分ける自転車の前輪になんだか自分の些細なたましいが、めり込んでいくように思った。轍はとうに幾度も幾度も刻まれてとりとめもないのだ。

佳主馬は14の時に健二を好きだと言ってくれた。健二は一人きり自宅のリビングの椅子のうえ、膝を抱えた格好で、携帯電話を握り締めて黙りこくった。双眸に、テレビの報道が滑り流れていく。キング・カズマ引退の報道は娯楽の景色に彩られて軽薄、大衆に配るための希薄さで、情報が構成され至るところにばら撒かれていたのだが、健二は、ただ蒼白を浮かべてぽろぽろ涙を流した。どかりと穿たれた巨大な空虚は健二のうすっぺらなからだに負荷をかけて健二は、どうしようもなくて泣いた。空虚だとか寂寥だとか、感じたのならば血ではなく涙が出る人間の生理は健二の数字まみれのいのちにもちゃんと作用した。気配を察した佳主馬の、電波に挿げ替えられた声音が困ったように泣かないでもいいのに、というのでも、健二はしばらく泣き止むことが出来なかった。
キングは大事な子だからこれからも僕のアバターとして使うし、ただ、もう僕はいいかなって思った。あの事件が終わって、もういいかなって思った。あの場所で勝って、勝ち続けることに僕はもう高揚出来なくなってしまった。なんでだか分かりますか。
健二は頭を抱えた。そんな抽象的なことを言われたって、想像力が欠落したあたまじゃあ何も分からない。茶色の癖毛が生えているようなあたまなのにそんな繊細なことを問われたって、相槌すら打てない。ぅ、とうめきがのどの奥を揺るがせる。
健二さん僕はね、キングを通してじゃあなくて、僕のこの全身で戦いたいと思った。
「………もう訳わかんない」
健二さんが好きです。知っていて。ごめんね。
「…………………僕だって好きだばか」
自分の呟きで自覚した。健二はそのしゅんかんに間違いなく激しい動揺を覚えたが、フシギと否定の観念は働かなかった。健二の人間性は様々の接触のため十分な開花を果たしていて、数学に傾倒しがちな連絡をうまく取り持ち始めていた。だから人を好きになるための苗床が知らず肥えてその場に発育していたのは佳主馬だったと、それだけだった。
今度は健二が、泣き始めた佳主馬を宥める番だった。

キングを引退してゲーム業界からも退いた佳主馬は何故だかボクシングなんか始めた。「僕のこの全身で戦いたい」という彼の言った意味をそれで健二はようやく理解した。
もともと格闘技を嗜んでいた彼はジムに通い鍛錬を重ねて目覚しい速度で競技を身に着けていった。健二は名古屋の大学を受験して一人暮らしを始めた。佳主馬は地元の進学校にスポーツ推薦で入学した。その内二人で暮らし始めた。男同士の覚束ない所帯だったが、それでもなんとかやっていた。佳主馬の貯金と、健二のバイト代だけじゃうまく立ち行かないから、互いの親の支援に寄生した生計だったけれど、健二は自分たちの結びつきが互いの家族に拡大して殆ど親戚付き合いじみてきたことに喜んでいる。「とうさんとかあさんもなんだかなかよしになった」珍しく夕餉の席で酒を舐めながら、健二の零した言葉はそれこそ佳主馬にとっての甘露だった。
ただ、池沢家はともかく小磯家は彼らの関係を親友だと誤解している。その誤解を解かないことに佳主馬は不安を覚えていた。健二と両親との間に新鮮な絆が芽生え始めているのに、健二はいざとなったら自分からその絆を引きちぎるだろうことが目に見えていたから。健二は心底喜んでいるくせにあくまで、自分と親との血縁を、刹那的に解している。健二は健二自身に容赦などしないだろう。それで、傷ついて己を呪うとしても、頓着せずに自分に寄り添うとしても、佳主馬はぞっとしない。なるべく早い段階に、どれだけ詰られようが嫌悪されようが、健二の両親に自分とのことを話してしまわないと、と佳主馬は考えている。そのためには健二にだって多少恨まれたって構わない。こちらのリカバリーに対しては自信がある。
アパートの隣地に設けられた猫の額。駐輪場とも呼べないような、チェーンに囲われた空地に自転車を停めて鍵をかけている細い姿を佳主馬は眺めていた。ウィンドブレーカー、インナーの内側にどっと流れる汗、心拍数が上がり火照る四肢に筋肉が強張る感覚が、ぐずついた六月の気配と相反して不快だ。健二は常と変わらない内気な笑顔で佳主馬を振り返る。
「タオル出してあるから、すぐシャワー入って」
「ありがと」
部屋の中は日中の西日のおかげで蒸しかえっていた。二人揃ってうんざりと似た表情をして、佳主馬はべったりと額に貼りつく漆黒をかき分けながらシャワーシャワーと浴室に退散していった。二人で暮らし始めて最初の夏に、これだけは無理どうしようもないよろしくお願いしますと、健二はクーラーの使用権利を全面的に健二が所有することを懇願した。なんせ佳主馬はタフなのでどれだけ暑かろうが不快指数が右肩上がりだろうが平気でいられる。そんなことをしたらひからびて死ぬ、死ぬまでいかないでしょ、しぬ、しんじゃう絶対に死ぬ、分かった分かったよ(小磯・夏の闘争より一部抜粋)。なので健二はもてる権利をフルに活用し、早速エアコンのスイッチを入れた。鈍い機動音にはやく涼しくなりますように、と願をかけて、健二はキッチンへ向かう。
佳主馬を迎えにいく前に大抵の支度は済ませていた。大きいボールにもった豚しゃぶサラダを冷蔵庫から出してラップを取り外す。市販のレモン風味ドレッシングを降りかけてしまってからとり皿といっしょに食卓へ運ぶ。玄米入り雑炊を作った鍋を火にかけて卵を溶き落とす。醤油とだしの香りがふうわりと混ざり合うようすは鍋の中に広がっていく黄色の柔らかさと通じる。あとは納豆だけの質素な食卓なので、食べ盛りに関わらずストイックに自分の肉体を作らなければならない佳主馬のために少しでも、と、よそった雑炊に三つ葉を散らす。
(食事に彩りを添えるだなんて俺一人じゃとうていやらないけど)
ランチョンマットの上に器と箸を並べながら、健二は胸中で呟いた。
椅子にかけて少しの間ぼんやりしているとその内佳主馬が出てきた。濡れ髪を分けて露になった額から顎にかけてを目に映し、彼の生傷が絶えない事実を思い知る。憂鬱がもたりと胸のうちを染める。
佳主馬はそんな健二のようすにはおかまいなしで、喜色に満ちた表情で席についた。
「うまそう」
「相変わらずなかんじだけど。僕がもう少しレシピ覚えられればいいんだけど、ごめんね」
「ううん。いつもありがと。むしろ健二さんに悪いよ、俺のこと気にせずにたまには健二さんだけでもがっつり食べていいんだから」
「いやー。僕もこういう食事のほうが好きだし、それに、せっかく一緒に食事するんだから。同じものを食べたほうが僕はうれしい」
健二がそう言うと、佳主馬はむっつり唇を一文字にさせて黙り込む。くすぐったい台詞で逆撫ですれば大人しくなる佳主馬はなんだか猫科をほうふつとさせて、健二はそんな彼を見たさに自分の唇を甘ったるく汚すことを厭わなくなっていた。
「じゃ、いただきます」
「いただきます」
健二は納豆をかき混ぜながら、佳主馬が行儀良く食事を口に運ぶ様を見る。
右目の端の切り傷の、ばんそうこうは数日前に取れたけれど、未だに、それも風呂上りには余計に、赤く浮腫んでいる。佳主馬の端正な顔は健二のあずかり知らない相手に日々殴られている。うつくしさはまだ失わないけれど鼻が曲がったりしたらいやだなぁ、と陰鬱な気持ちになる。
佳主馬が望んでやっていることだから自分は口出しができないが、やっぱり佳主馬が殴られるのはいやだ。
(…別に佳主馬くんが殴るぶんには構わないんだけどなぁ。や、よくないけど…まぁ…殴り合いがもとからすきじゃないだけで、どうでもいいというか…ただ佳主馬くんが殴られるのはいやだなぁ)
いつか試合を見に行って、佳主馬は、3Rの最中で鼻血を出して、彼の頬を殴りつけた拳を健二は物凄い形相で呪った。けれど次のラウンドで佳主馬はKO勝ちしてくれたから少しは溜飲が下がった。汗と血にまみれた顔で佳主馬は笑って、その彼の右腕が審判によって高々と掲げられて健二は誇らしさにひ弱な体が破裂しそうだった。
ルールは未だにうろ覚えだし興味はないし佳主馬が殴られるのはいやだし、でも、心底からボクシングに打ち込んでいる佳主馬のことはだいすきだ。
「…インターハイ合宿、もうすぐだね」
健二がぽつり言うと、佳主馬は咥えた箸から唇を離して、ちょっと俯いて寂しそうに頷く。
「しばらく健二さんのごはん食えないと思うと萎える」
「はは」
「いやマジで」
佳主馬は苦笑した。
「こうしていっつも一緒に居られると、なさけねーのな。ちょっとの間なのにめちゃくちゃ落ち込む」
「落ち込んでる場合かって。がんばってね」
それに、と健二は言葉をつぐ。
「僕に言われるまでもなくそんなちょろい覚悟ではいないでしょう」
佳主馬が口を噤むのに、ちょっとあてこすりだったかなと健二は後悔した。戒めるように納豆をずずと吸い込む。
佳主馬が何故ボクシングを選んだかしれない。殴り合いで勝敗を決する動物の衝動に人間の理性を付け加えて競技たらしめる乱暴なことを健二は困惑の網で朦朧ととらえるしかできない。
体を苛めて筋肉を育てて、プロテインなんかも飲んじゃって、細身ではあるけど佳主馬の体は野生的にかたい。力を込めた上腕が驚くほど凶暴を秘めるので健二はちょっとだけ恐ろしくもなる。
自分は、脳髄に理路を編んで、そのことに執心するので肉体なんかおまけだ。けれど佳主馬は肉体を本尊にして世界に滑り出すことを望んだ。
機知と奇才に溢れた上等の脳髄を粗末にして、佳主馬の成績はどんどん悪くなるのに、誰も咎めない。授業中寝てても起こされないんだ、となんとはなしに言う佳主馬の後頭部を思わずはたいたこともある。
(俺よりも断然聡明なのに)
妬み混じりの自覚はある。が、自覚は佳主馬の生傷に収束して意味をもたなくなってしまう。
仮想空間に投影された自己がプログラムによりダメージの多少を表現するのではない。佳主馬は相手を傷つけるし佳主馬は傷つけられている。それは彼の肉体にまざまざ刻まれる。小柄な体躯を構成している強靭には血が通っている。中心には心臓がある。池沢佳主馬の存在が充満するすべてだ。
健二は最近、ようやく、薄明かりのように、彼の言葉を意識に浸透させはじめている。
(戦って勝つのがすきなんだ)
(僕のこの全身で戦いたいと思った)
しかし健二はまだ、なぜ彼がその考えに至ったのかの根拠には抵触していない。
健二自身の有機、健二の存在が充満している脳髄が佳主馬に与えた命題に露も気づかない。
そんなことよりも健二は風呂に入ってしまったら、久しぶりに佳主馬にマッサージでもしてやろうかなと考え始めている。佳主馬といっしょにならなければ、スポーツマッサージの入門書なんて一生買わなかっただろうな、と思いを巡らせながら。

健二が風呂から上がると佳主馬は電気をつけたまま、ベッドに横たわってぐっすり眠っていた。うつ伏せになってそれこそ死んでいるような格好だが、僅かに眠りの揺籃が彼の体にめぐっている。健二は髪の水気をふき取ったタオルを肩にかけて、嘆息した。
いっしょに暮らし始めてから肉体関係をもって、はじめのころは二人して肉欲に没頭していた。だが睡眠時間と肉体疲労の配分の無茶が段々と佳主馬を苦しめ始めて、無理までしてすることじゃあないしたい時にしよう、と、二人で決めて、セックスの回数は時間が経つにつれて少なくなっていく一方だった。朝早く起きて学校生活を送り、ボクシングをやって帰宅する佳主馬はいくら若いからって相当に疲れ果てて、ごはんを食べたら無邪気に昏倒してしまう。
こんなに無邪気に寝てしまえるのはボクシングでやましさとか発散しているせいだろう、と健二は思って自分の性欲にはっと気づいて苦虫を噛む。
自分のほうが淡白だと思っていたのにこの有様だ。健二はもう一度深いため息をこぼした。
健二はベッドに寄りかかるようにして腰を下ろすと、何をするでもなく虚空に視線を投げ打って、物憂い自戒に浸っていた。かすかな寝息が鼓膜の中で熱を帯びていくことにすら、自己嫌悪が触発される。
時計を見やるとまだ十時にもなっていない。もう少ししたら佳主馬を起こして、歯は磨いてもらわないといけない。
ともかく持て余した自分をどうしようかと途方にくれる。なんだか数学をやる頭じゃない。もう少しだけ、佳主馬のことを思考から漂白しないとここから動くに動けない気がした。
と、背中のけはいが動いたので健二はちょいと首を回した。佳主馬がうつ伏せのままもぞもぞこちらを目指して這いずってきて、ぐるりとその腕を健二の首に巻きつけた。
健二のしろく薄い皮膚と肉は、佳主馬の腕の力強さに触れられ一気に熱を帯びた。首筋に眠たげな様子で佳主馬が顔をうずめてくる。健二は彼の腕に這わそうか惑う指先で空を散らした。
「ど、どうしたの」
「………これいいな」
「え?」
「なんか、抱きしめてるってかんじ……」
佳主馬は苦しそうに息を吐いた。
「…………おれどうして………ちびなんだろ………」
苦痛を訴えるように滴ったうめき声に、健二の頬はますます赤みを増していく。
佳主馬が背が伸びないことに対し思い悩んでいることを健二は痛いほど知っている。力もスタミナも健二より何倍あるかしれない佳主馬は、それでも背だけは伸び悩んでいる。父方の隔世遺伝だと思う、と沈鬱な表情で分析している姿は今思い出しても涙ぐましい。少年時から筋肉を鍛えすぎて伸びしろが凝り固まってしまったんじゃないか、と健二はひとつ推理しているが佳主馬を打ちのめすだろうので口に出したことはない。
「………このくらいの、背になりたい………せめてさ、並べるくらい………」
そんな、と、健二は喘いだ。
「背、なんか、さ…どうでもいいじゃない…佳主馬くんは、だって、じゅうぶん…」
しどろもどろの言葉にフォローっ気を雑ぜているつもりは微塵もない。
「……なんつーか、複雑な気分だよね…」
佳主馬はぼつりと囁いて、まだ、少し髪濡れてるね、と続けた。
健二はというと佳主馬の触れる場所から、記憶の底に埋もれていた佳主馬との性的なあれこれが塵ほどの身軽さで舞い上がり拡散していき気が遠くなりそうな、欲情がぱちぱちぱちぱち際限なく溢れてはからだじゅうに巡っていって結局のところ股間に集合していくので情けなくて涙が出そうだった。
自分を抱く佳主馬の腕は途方もなくつよくてやさしいのにこんなことばかり望んでしまう己の雄が憎たらしい。
「…ドライヤー、使ってくるから」
健二はようようそれだけ呟いた。その言葉に開錠された佳主馬の腕はまた睡眠のうろへと引き差下がっていく。
立ち上がり、見下ろせば先刻とそう変わらない姿勢で佳主馬は眠り始めている。健二は唇を噛んで、腕を振り上げたけれど、結局打つこともできずに貧弱なこぶしを作るに留まった。
(もし)
自分もボクシングをはじめればいつか佳主馬はリングの上で自分と殴り合ってくれるだろうか。
(…そんなことできるわけないくせに、俺はどうしようもない)
だけれどもその妄想が叶えば自分はどれだけ清廉に彼を愛することができるだろうかと、健二はおろかな夢想にかなしみを覚えて、あえかな寂寥を胸に穿ち洗面所へそっと姿を消した。

均衡しない頭脳と肉体がこれほど煩わしいのは悉皆彼をすきだからだ。




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  1. 2010/07/04(日) 22:09:40|
  2. 【ちったいかずくん】
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