炎如交際

キング×(数学+鼻血+保護区域)=世界平和 を提唱(したい)ブログです

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【ちたいごときに】

私は 帰って きた!!!
というわけで復帰一発目はちったいかずくんシリーズです。。
なんだかんだなぜだか時間がないのでとりあえず更新させていただきました。

拍手お返事は近日中にさせていただきます。皆様、更新もないサイトに本当にありがとうございます、kzkn書くぞ!!!

※ちったいかずくんシリーズについては注意書きページをご覧になてからに閲覧をお願い致します。



ちたいごときが

上田にかかる夏空は底抜けに青く高い。もったりと濃厚な白さを誇る入道雲が威風堂々と盛られている様に佳主馬は、何度見上げても背筋が伸びる思いがする。自らの体を流れる血から、夥しいざわめきがこみ上げるのを抑えきれない、高揚だ。
隣でくたくたと歩くひとの、白い皮膚に陽光が反射して内側から光るようなまぶしさ。彼の冷ややかな体温はすぐに夏の温度を飽和させてとろとろ溶け出す。汗を拭いぬぐいしている横顔が心配で眺めると、途方に暮れるような、やわらかな安心しきった笑顔をするのは、少し卑怯だとまで感じる。
けれど今年もその笑顔が不均衡の憂き目を見るだろうことが、佳主馬には目に見えているので少し複雑な気分にさせられる。
だろうが、なんだろうが、とにかくこの急勾配を上りきりあの広い屋敷に行かなければならない。屋敷の中にはなつかしい人たちが、もう既に賑やかしくしているのだろうから。この夏のさんざめくような蝉時雨、過剰な栄養を含む陽光に緑が繁茂する騒がしさにも負けず劣らず。

「佳主馬、今年でいくつになったんだっけ」
「開口一番がそれ?」
ようやっとのことで容赦ない陽光から庇の影に入ったというのに、玄関まで出迎えに来てくれた人物の的確さに佳主馬は憮然と唇を尖らせる。肉体的に苛んでいた灼熱ほどの凶悪さはないけれど、(ひとのものにならないせいなのか)いつまでもきれいな面持ちを保つ親戚の女性が放つずけずけは、性質が悪い。
(俺にはそこまでではないけれど。俺じゃなくて、な)
「18だよ」
「…18歳かぁ…」
年甲斐のない赤いマニキュアが似合う整った指先を同じ趣味の赤い口紅を引いた口元にもってきて真剣な面持ちをする直美に、佳主馬は眉を顰める。
「荷物重いから早く上がりたいんだけど」
「んー…そしたらさぁ、男子ってもう伸びないもんかしら」
ねぇ、の語尾に被せるように、少し遅れてきた健二が
「あー、直美さん、おひさしぶりですー」
と暢気に挨拶する。直美はぱっと表情を明るくさせて「健二くんいらっしゃい」なんて言うけれど、佳主馬はますます眉間に刻む影を濃くする。健二のぽやっとした声音はなるほど穏やか極まりないが、それが作られた暢気であることで、佳主馬より遅れて庇の影にのたり姿を現したことが計算づくであることを察することができる人物は限られている。
「もう夏希も来てるわよー。早く顔見せてあげな」
彼女(だけではなく陣内家)が健二を身内として認識していることは、健二にも浸透する共通項になって久しいけれど、同時に加味された異性的な甘やかしは女性陣の共通項になっている。健二は童顔にうれしそうな色を込めて、はい、ありがとうございます。と礼儀正しくかつ丁寧な愛嬌を込める。内心呆れる佳主馬すらかわいいと思ってしまうので直美には効果覿面だ。
「君っていつまでもかわいいね」
「かっ…そ、そんなことないで、すよぉ…」
汗だくの顔を容易く赤面させる健二ににんまりと満足げな微笑みを浮かべた直美は、足取りも軽く長い廊下を行き、健二くんと佳主馬が来たわよぉ、とはしゃいだ報告をしている。
佳主馬はこっそりと健二に顔を寄せて、「健二さん」と咎めるように囁く。先ほどとは一転して拗ねた顔の健二は「だって」と子供じみたつぶやきを漏らす。
佳主馬は嘆息して、彼の、自暴自棄にぶら下がっている五指に自分の指を絡めた。
「あまり、こどもみたいな振る舞いをしないで」
わざと健二の癪に障る言い方をすると、健二は不満そうな目つきで佳主馬をじろりして、手の甲に軽く爪を立てる。佳主馬はかわいらしい痛みにちょっと眉を顰める。佳主馬のきれいな顔立ちに、そうした陰が滑り込むのを、健二は憎たらしく思うけれど嫌いじゃあない。
「…僕だって、おとなだから大丈夫だけど、君にかかわることとなると造作もなくて参るよ」
健二がそうぼやくと、佳主馬は眉を顰めたまま僅かに笑う。
「あなたが俺にアッサリと傾倒するのは悪くないけれど」
健二は怨めしそうな顔つきで佳主馬を見下ろして、立てていた爪を彼の皮膚からそっと外し代わりに指の腹を滑らせて上げた。佳主馬は手の先まで鍛え上げて逞しくどこに触れてみてもほんのり熱い。
「…そういう事をあまり安売りして言わないでいいのに」
健二はぷいとそっぽを向いてしまった。
安売りしているつもりはないんだけどなぁと佳主馬は思った。
「…早く荷物を置いちゃおう。喉が渇いて仕方がない」
健二は強情に佳主馬から視線を逸らして、絡めていた手を外す。佳主馬ははいはいと相槌を打ちながら、もうちょっと手を繋いでいたかったなぁと思った。そういえばうちにいる時にキスはするけれど手を繋いだのは久方ぶりだった。
(てのひらが嬉しい)
ふふふと笑っていると、健二は不思議そうに、ちょっとだけ不審そうに佳主馬を振り返った。

佳主馬はウーロン茶を飲みながら、ちらちらそわそわと隣を見やっている。視線と注意を隣の人物に注ぎながらも自分に降りかかる揶揄を鬱陶しく振り払わなければならない。片手をひらつかせてみたり、混ぜ返しに痛烈をこめてみたりしても、矢継ぎ早に飛んでくる親戚一同の愛情篭った遠慮のないことばの群れに辟易する。けれども佳主馬自身、そんなに気にはしない。
(俺はいいんだけど)
問題は隣でにこにこしているお兄さんだ。佳主馬に付き合ってウーロン茶を飲もうとしたところ、佳主馬は未成年だしアスリートだからわかるが何もおまえさんまでノンアルコールは許さないとかなんとか言われてしまった健二の手にはしっかりとビールの入ったグラスがある。なんだかんだで毎回夏の宴会に参加して、一度なんか吐くまで飲まされた健二(飲ませた組に対する夏希以下女性陣の剣幕といったら凄まじかった)は、それでも健気に耐性をつけはじめてちょっとやそっとじゃ酔っ払わなくなった。もともと飲んでも意識はしっかりした人だ。
だが今の彼は完全に理性を失っている。アルコールを摂取したことで余計に、やさしい気質だとかおっとりの温厚さだとか、おおよそ人間をつくる上で作用してくる部分が薄れて佳主馬くらいにしか分からないだろうが笑顔のすぐ裏にいらいらが募り始めている。この席で爆発することはないだろうが、あとで二人になった時に厄介だ。健二は遠慮しいだけど、なにかあって仕方がなくなると佳主馬にぶつけるしかない。ぶつけられるのはむしろ嬉しい。ただその後に健二は落ち込んでしまう。あまり怒りに縁がない人だから、どかんとなるとその反動で自らを傷つけてしまう。
「健二くんどころか、夏希の背も越えないもんなー」
気楽にのたまった克彦の方を向いた、健二の一見穏やかそうな瞳のなんと恐ろしいことか。佳主馬はぞっとして、懸命に噛んでいたイカをごっくんと飲み下してしまった。
「ねー。お父さんは別に小さくないのに」
「あの人のお父さん、父方の佳主馬のおじいちゃんね。が、結構小柄なのよ。隔世遺伝ね」
「へぇ。佳主馬は陣内の血が濃いと思ってたけど、やっぱり似るところは旦那方にも似るのね」
「そりゃそーよ。私一人で拵えたんじゃないんだから」
聖美の言葉に場がどっと湧く。母親の口ぶりに思わずがくっと来た佳主馬だったが、五歳になる妹のきょとんと母を見上げる賢そうなまなざしに、その内お前にも分かるようになるしたぶんお前は母さんを嗜めるよ。と胸のうちで語りかけた。おなじ人たちに育てられた上に自分といういいのかわるいのか分からない兄を見ながら育った彼女は母にはもちろん似ているが性格は佳主馬に似てきている。同じように育てられたから当たり前なのだろうけど、女の子に産まれたのでなんとなく佳主馬は、彼女が母の姉妹のように育つのではないかと予感している。
「でも、あれでしょ。ボクシングって小柄の選手、多いわよね体重制限もあるし」
理香が訳知り顔に言えば、
「そうだよな、佳主馬はもともとセンスがあるし、いい選手になるよ」
と弟が加勢する。すると健二をとりまくぴりぴりがふっと和らいで、むしろ真顔になってこくこく頷くので佳主馬は思わず口元を押さえて俯いた。口が緩んで含んだウーロン茶が唾液と一緒に漏れそうだったのだ。
けれど分別を失い陽気を増長させている連中は佳主馬を槍玉にあげてわいのするのを止められないらしい。
「でもほんとーにもったいないわよねー、そりゃボクシングだったら一種の長所になるんでしょうけど、そんだけきれーな顔に産まれついてさ、背丈が標準サイズの女の子くらいだっていうのは」
直美がビールを傾けながら言う。また健二の表情にさっと張り付く戦慄の笑み。
「そーねー。手足も長くて顔もちっちゃいのに。もったいないわぁこれでせめて健二くんとおなじくらいあればまだちょっとは違うのに」
手のひら返した理香が箸で宙に幾重か円を書く。万理子が嫌そうに眉をひそめて「はしたない真似をしないの」と叱る。
「ちびでもいいだろ、佳主馬は陣内家自慢の逞しい男子だ!なぁ太助」
万助の豪快なフォローは健二のお気に召さなかった。
「ちびはちびだけどなー」
翔太の合いの手なんか火に油、小磯健二に煽り風だ。
「俺、佳主馬にーさんよりぜったいでかくなってやんよ!」
真悟ったら。微笑ましい。微笑ましいじゃないですか健二さん。だからそんな修羅めいた笑顔はどうかおやめになって。佳主馬は胸中でそう訴えた。が、どれだけ無言の疎通が訓練してある二人の間柄でも、熱すぎて青く変色するのに似た健二のうつくしい瞋恚の前にぼろぼろに焼き尽くされて、吸殻の白。
「真緒が佳主馬にいよりおっきくなっても、佳主馬にい真緒のこと嫌いにならない?」
生まれたてぴかぴかの女らしさで、おずおず言う真緒は典子に似たスッキリした美人になるだろうなと予感させる目鼻立ちになった。真緒を嫌いになんかなるはずがない。だから健二にいをそれ以上刺激しないでくれないか。
「まぁ佳主馬はほかが完璧だから多少欠点があったほうがモテるんじゃないか」
「いやいや結構背丈って大事だからな、女の子から見たら」
「その点俺たちはこの体格のおかげでいい嫁さん見つけたからなー」
朗らかに笑う三兄弟をはじめいつの間にか親戚みんなの口に佳主馬の背丈についての議論が染み渡っていく。万理子までが
「もっとカルシウムのあるものを拵えた方がよかったかしらねぇ」
とあたかも自分に非があるような表情で頬に手をやり、やるせないため息をつく始末だ。
さっきから健二が一言も喋らずにぐいぐいとビールを飲み下して、耳の先を真っ赤にさせて尋常ではない笑顔でいるのに誰一人…佳主馬以外気がつく様子もない。その口角が、引きつり始めていることにも。
佳主馬は肩をすくめて、そろそろ彼の内側に溜まりきった毒素をちょっとでも抜いてやるのが恋人の務めと健二の肩に手をかけようとした。
佳主馬の視界を遮ったのは幼い腕だった。小さくても綺麗に整う掌は、迷うことなく健二の薄い肩に置かれる。
一同にシンと沈黙が走る。薄膜のような静寂に襞を寄せるは凛と高く通るこどもの声。
「けんじ、おちつけ」
健二は、自分を見上げる双眸の、兄によく似た黒曜が、透き通った心配に漲り潤っている可憐さに、はっと息を呑んだ。
次の瞬間には大広間に哄笑が破裂する。張り替えられたばかりの障子が細かく震えて破れるものかと耐え忍ぶ。
「なに、どしたの、なにがあったのー!?」
「ちょ、ちょ、ちょう、ちょうかわいい!ちょうかわいいぃいぃー!!!」
「あは、ほんと、佳主馬といい、うちのこ健二くんに懐きすぎだわよー!あーかわいいったら!!!」
多種多様の年齢層・性別から成る大爆笑の渦の中で、ただ二人、健二と佳主馬だけが呆気にとられ、不安そうにしている妹の所業に、このこはいつのまにこんなに大きくなって、と、感慨の海の中に感動の波を感じていた。
先に我に返ったのはやはり佳主馬だった。佳主馬は立ち上がり、
「健二さん、ちょっと」
と健二に声をかける。健二は自分を見下ろす瞳の内側に、半ば呆れのひかりを認めて、苦々しそうに「うん」と言う。佳主馬は嘆息する。やめなさい、俺の妹のこころを見たでしょう、といわんばかりの所作に、健二はもう一度「うん」と合点合点して、よろり立ち上がった。立ち上がってみると、さっき自分を見下ろしていたひとの目線が上向いている。更に低いところに同じ質の黒い双眸がある。健二はようよう穏やかな笑顔に戻り、「うん」と頷いた。

彼が腹を立てる理由が、佳主馬にはただの不思議でならない。
自分のことを言われる分には、佳主馬は別に気にならない。それが親戚ならばなおさらだ。口の悪さにも慣れ親しんでいるので、瞬間的な「こいつ」は思うこともあるけれど、大抵は意にも介さずにはいはいと聞き流せる。もし健二のことを悪く言われたら、そりゃあ自分だってその時には気色ばむだろうことは予想づいたが、健二は別に佳主馬の背が低いことなど気にしていないし、他人に揶揄されてもしょうがないなぁと心持困るだけなのに、家族同然の(と、思うのは佳主馬の甘えだろうか)彼らに佳主馬が背のことについてなんやかや言われてしまった時に限って憮然と機嫌を悪くする。健二の内気で数学的なきもちの内でどんなフクザツが作用して不機嫌に至らしめるのか、考えたところで佳主馬は思い当たる節すらない。
目の前で、広い和室の隅に布団を敷いて横たわる健二の痩躯に、一度緩和されたはずの苛立ちがこんもりなのを佳主馬は閉口して見つめるだけだ。華奢な背中からはよくない気配が茫洋と立ち込めている。佳主馬は今日何度目かしれないため息をついた。
「健二さん」
「ん」
呼ばれて寝返りをうった彼の眉間には似合わぬ影が刻まれている。
「ん、って。ねぇなんで?」
「…なんでって」
「そんな風にとぼけてもだめだよ。わかっているくせに」
「わかっているからいいじゃないか。君は賢いからなんで僕がこんな風になっているのかわかっているでしょう。それが理屈に合わないことも。そういうものでしょ人間って。だからかまわないでもいいんだよ」
面倒くさそうに面倒くさいことを言う。どの口が、と言われれば何度も佳主馬が吸ったことのある薄い唇から漏れ出す不平である。佳主馬は仕方がなさそうに肩をすくめて、立ち上がると健二のうすっぺらな腰あたりをぐいと掴む。簡単に持ち上がった腰を支点に、ちゃんと枕を敷いていた体を無理に、布団に対して横向きにする。
「なに」
さすがに驚いたらしい健二の声には耳を貸さずに、佳主馬はそのまま布団の端を持ち上げてくるぐると健二の体を布団で巻き始める。健二は「わぁ」と驚いた声を上げたが、途中からは愉快そうに「やめてやめて」とはしゃぎだす。無論、やめずに佳主馬はあっという間に健二を簀巻きにしてしまった。首だけになった健二を覗き込むと、ちょっとだけ気分が晴れたらしい顔があった。この人はけっこう子供じみた真似を好む。付き合い始めは知らなかったし、彼に対して敬虔にちかいものを抱いていた(る)佳主馬ははじめ彼の気分を操作するのはむずかしいとはなから決め付けてどうすればよろこぶのか四苦八苦していたが、なんのことはない愚図るこどもをあやすなら、妹で散々訓練されてきた。
「健二さんが」
佳主馬は健二の髪を撫でながら、
「健二さんは、他人なら平気なくせに、ここだとどうしてこんな風になっちゃうの」
「………君はわからないでもいいよ」
健二の上目遣いにもう不機嫌は潜んでいなかった。ただ困っている様子だった。
「だって僕が悪いんだから」
「………」
「………僕はだから、やっぱり、君の家族にはなれないのかなって」
「なにそれ」
「君は僕の恋人だから」
「………」
健二は困ったように笑う。
「もう、いっしょうこのまま恋人なのは変わらないのかなぁ」
頭だけ布団から突き出したそのままで、健二は体をよじるので、もごもごと布団がうねる。佳主馬は眉間に指をやって、ええと、と唸る。
「健二さんはよくさ、俺にさ。いきなり口説くのはやめろとかいうけど」
「口説いてないよー。僕は別に」
「………ああそう」
佳主馬は大仰にため息をついてから、健二の眉間をぐりぐりと指の腹でこすり付けた。健二はきゅうと目を瞑る。引きつる目じりの緊張すら佳主馬の目にうつる時にかけがえない色を与える。
「…もっとわかりやすく言うと」
佳主馬が乞うと、健二は目を瞑ったまま、「僕は君のからだにも惚れているから」と吐息交じりで呟く。
「…だから、もう少し背が高ければいいのになんて言われたらさ」
「…他人が言ってもちょっとも動じないじゃんか」
「他人はだって他人だもの。優越感があるから腹も立たないの。でもみんなに言われるとなんでそんなこというのって、思っちゃうんだよね」
「……」
「うーん。嫉妬なのかなぁ。悔しいのかなぁ。わかんない」
ごちゃごちゃしてめんどくさくて余計にイラついちゃうんだよな。と、健二の声は気だるげだ。佳主馬の指先は撫でるように健二の眉間を滑っている。こうしていると健二は眠たくなるんだという。
「佳主馬くんの家族になれば佳主馬くんの背のことをからかえるようになるのかな」
あくび交じりのことばが、佳主馬の鎖骨付近につっかえる。
佳主馬は立ち上がって、簀巻きにしたままの健二の体を畳から持ち上げた。突然宙にぶらさげられた健二は情けなくびっくりする。
「え、なに?」
佳主馬は応えずに、健二を抱えたまま部屋を出てそのまままだ親戚らが飲み騒いでいるだろう広間に向けてずんずん歩き出した。途中、台所に向かっていたのだろう奈々が年と無関係な幼さを宿した可愛らしい顔をきょとんとさせて、華奢な体を縮こまらせてふたりに道を譲ってくれた。
喧騒というのは穏やかではないが、さまざまの人間が理性を綻ばせて大声で笑いしゃべる交差がふるい家の柱や廊下の木目に染みていく。最初に目が合ったのは直美だった。直美は笑ったままの表情で硬直して、はじめて見る生き物に対する目つきで佳主馬と簀巻きにされてぶら下げられている健二を眺めた。
直美が黙ったのがかえって波紋になって、親戚の目が二人に集中する。そのどれも呆気にとられた表情をたっぷりと眺めて、佳主馬は一言「おやすみ」と宣言した。挨拶ではない。
ところへ一番早く駆けつけたのはやはり佳主馬の妹だった。年のせいでまだまだ小柄なからだでぴゅっと佳主馬の足元に取り付くと、兄ではなく健二に向けてその紅潮した顔をさらす。大きな目の中いっぱいに、星を散らすようなきらきらが滑り込んでいる。きっと彼女のいのちが奥底で煌いているせいだ。
「けんじ!かわれ!かわって!」
加奈もー、と、先客より二歳年上のはずの加奈が遅れて佳主馬のもう片方の足にひっしと縋り付く。佳主馬が了承を取る相手に声をかけるまえに、
「だめー」
と言った声があまりに大人気なくて、うれしそうで、佳主馬はこみ上げる笑みを殺しきれずに口の端に乗せる。

抱えていた佳主馬は見ていないのだけど、
「あの時の健二の顔いっしょう忘れない」
と、苦々しい様子で妹はことあるごとに言う。決まって健二が佳主馬の隣にいる時にだ。
いつまで言い続けるのかなぁ、と閉口する健二には言わないけど、たぶん自分らの髪の毛がそろって真っ白になっても、彼女は言うだろうなぁと佳主馬は予想している。
とうに兄の背は越しているのだし。




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